日曜日に映画を見てきました。東京映画祭関連の事業で、文化庁映画賞の文化記録映画優秀賞を受賞した作品の上映会です。招待に応募して当たったので無料でした。

オオカミに関心があるので、もともと見に行こうと思っていたんですが、映画にはオオカミそのものはほとんど登場しませんでした。でも、とても興味深い作品だったので、ちょっと長めにご紹介したいと思います。興味のない方はスルーしてくださいね。
映画のタイトルは『オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに―』。↓予告編です。
ドキュメンタリー映画
2008年 / 114分
監 督 由井 英(株式会社ささら プロダクション)
支 援 文化庁
後 援 川崎市 / 川崎市教育委員会
映画の完成までには七年かかっているそうです。もともとプロデューサーの小倉さんという方が、実家のまわりに残るお百姓の暮らしを記録しようと数年かけてビデオで取材したものを、改めて映画として制作したということでした。
神奈川県宮前区土橋は、現在は開発が進んで住宅が密集していますが、昔は小さな集落で、みな農業を営んでいました。昔ながらのやり方でタケノコを栽培するお年寄りがいて、出荷するわけではありませんが、今でもこのコミュニティでは、毎月いくらかのお金を積み立て、年に一度住民の代表が数人で御嶽神社へ参拝に行く習慣(代参)を守っています。
(←今年八月、たまたま私も御嶽神社へ行ってきたところです。そのときにいただいてきたお守り)
台所や土蔵に貼った大口真神(御嶽神社に祭られている神)のお札は火事や泥棒避けになると考えられていたようです。
御嶽の山頂にある集落には、御師と呼ばれ、共同で神主を務める家が何軒もあります。参拝者はまず、ここで足を休めるわけですが、宿(昔は宿泊したのでしょう)にするところは講によって決まっています。神社へ詣でてご祈祷を受け、お札をいただくと、宿坊で会食です。餅まきをしたり、神楽を奉納したりする講もあり、御嶽神社へは関東一円から広く参拝が行われてきました。山のコミュニティと里のコミュニティの間に親しいつきあいがあったわけです。戦中、戦後の物資の乏しいときにも、里から山へコメなどが届いていたといいます。
神社では、鹿の骨を焼いて作物の出来を占う太占(ふとまに)が行われています。その結果がお札とともに里にもたらされるのですが、ただ作物の出来を知るというのではなく、農家の古老は、表を見て、春から夏まではよく晴れ、秋には雨が多くなる、というように天候を読み取っていました。
さて、大口真神のお札は、御嶽神社だけでなく、秩父山系のいくつかの神社が発行しています。関東平野を潤す荒川・多摩川はこの秩父山系に源流があり、御嶽山はその玄関口にあたります。オオカミを描いたお札を最初に刷りだしたのは、さらに奥に入った三峯神社だったようです。
このあたりでは、昔はオオカミが出産したらしいとわかるとその近くに赤飯を供えて祝ったそうで、点在する祠にお供えをする習慣が残っています。山のことですから、猪や鹿の害を防いでくれるオオカミは有り難い存在だったのでしょう。オオカミの骨は狐憑きの治療に効果があるとされ、周辺の民家から由来のわからない、古い古い骨が発見されています。
正月には今度は御嶽神社の御師が講の家を一軒一軒訪ね、お札を配って歩きます。里から参拝するだけでなく、山から訪ねていくこともあるんですね。二つのコミュニティの結びつきの深さがわかります。
大口真神のお札は人の手で運ばれ、山の暮らしと里の暮らしを結びつけてきました。知らないと、山の暮らしは山の暮らし、里の暮らしは里の暮らしと別のものと考えてしまいますが、山と平地は川で繋がっています。毎日野良仕事をしていたお百姓は朝晩秩父の山を目にしていたでしょうから、今の私たちが思うより、お山は遠くても親しいものだったのではないでしょうか。
映画でははっきり指摘していませんでしたが、御嶽神社や三峯神社は関東平野の水源地であるとともに、測候所の役割を担っていたのかも知れません。参拝して山に暮らす人びとと交流することで、その年の天候を占う情報が得られたのではないでしょうか。山仕事で山林を管理する人びとは水源地を守る番人でもあったわけで、その人びとが益獣として尊んでいたオオカミを信仰する形で、山と平地のコミュニティが支え合って暮らしを守っていたのだと思いました。
しかし、今では平地に農業で暮らしを立てているお百姓はほとんどいません。山も今では里のお百姓の信仰に支えられているわけではなく、観光業が柱です。先達が長い時間を掛けて構築してきた枠組みが失われていくのかなあ、と寂しい気持ちになりました。
昔の人は顔の見える人間関係を通じて暮らしを守ってきたのに、現在の私たちは、不安を感じながら、毎日、どこで作ったのかもわからないものを食べています。これが豊かになると言うことなのかなあ?と疑問も感じます。
私は名古屋出身なので、木曽の御嶽山(おんたけさん)に何度か登ったことがありす。昔は講という形式で登山が行われていたのは知っていましたが、農民のレジャーだったのだろうと思っていました。それだけではない深い意味を持っていたことがよくわかりました。
めあてのオオカミに関する情報は特に得られませんでしたが、農作文化の地層の深いところを垣間見たような気がします。たいへん興味深い内容でした。関東平野に住んでいる人なら一度は観てもいい映画だと思います。
『オオカミの護符―里びとと山びとのあわいに―』は10月31日までポレポレ東中野で10:40から上映中。今後は神戸・大阪などで上映会が予定されています。DVD(3500円)も発売されています。詳しくはささらプロダクションのHPをご覧下さい。ささらプロダクションでは『谷戸の暮らしと講』という作品を製作中だそうです。
ご注意: 映画の予告編の動画以外の画像はすべて私が8月に御嶽へ行った際に撮影したもので、映画とは直接関係はありません。
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